概要

摩耗症(abrasion)とは、歯ブラシや爪楊枝のような外部の物体との繰り返す摩擦によって、歯の表面が徐々にすり減ってなくなる現象です。細菌が作る酸が歯を溶かすう蝕とは異なり、純粋に物理的な摩擦によって生じる非う蝕性の欠損です。最も多く見られる形は、歯と歯肉が接する部分である歯頸部が、深さより幅の広いU字型になめらかにすり減る形ですが、形だけで判断することはできません。

正常な歯と摩耗症の歯の断面比較。摩耗症の歯は歯頸部がU字型に浅くすり減っている
正常な歯と摩耗症の歯の断面を比較した図。歯頸部がU字型にすり減った様子を示す。グラフィック。AI生成画像

原因

最も多い原因は誤った歯磨きの仕方です。歯ブラシの毛を強く押し当てて左右にこすりつける習慣と、研磨剤の多い歯磨き粉を長く使う習慣が重なると、歯頸部の一方に集中的にすり減りが生じます。爪楊枝や爪、指輪などで同じ場所を繰り返しこする習慣も原因になります。咀嚼中に食べ物によって歯がすり減る場合もありますが、これは摩耗症とは別に区別して扱います。実際には、歯磨きによる摩耗に、歯ぎしりのような歯同士の摩擦である咬耗や、酸っぱい食べ物や胃酸による腐食、異常な咬合力によって歯頸部にくさび状の欠損が生じる屈曲破折が重なって現れることが多く、一つの原因だけでは説明できない場合があります。

強くこすりつける歯磨きによって歯の首の部分に繰り返し摩擦が加わる様子
強くこすりつける歯磨きによって歯の首の部分に繰り返し摩擦が加わる様子。グラフィック。AI生成画像

症状

歯の首の部分がU字型にすり減って見えたり、指先で触れると滑らかにへこんでいるのが感じられます。すり減った部分から内部の象牙質が露出すると、冷たい水や冷たい風、甘い食べ物に一瞬しみることがあります。ただし、損傷がゆっくり進行する場合は、特にしみる症状がなく見た目の変化だけが現れることもよくあります。まれに長く放置されて欠損が深くなると、噛んだときに痛む症状が現れることもあります。

診断

歯科ではまず、すり減った部分の位置と形を目で確認します。歯頸部が幅広く浅いU字型であれば摩耗症に近く、狭く鋭いくさび形であれば屈曲破折、なめらかな皿状であれば腐食を疑います。ただし、一本の歯に複数の原因が同時に作用して形が混ざって現れることが多いため、見た目だけで原因を一つに断定することはありません。歯磨きの習慣や好んで食べるもの、歯ぎしりの有無も併せて確認し、しみる症状があれば冷たい刺激への反応の程度も見ます。う蝕が重なっていないか確認するためにレントゲン写真を撮ることもあります。

治療と受診先

すり減りが浅く症状がなければ、まず歯磨きの習慣を変え、研磨性の低い歯磨き粉を使って経過を見ます。しみる症状がある場合は、再石灰化を促す成分や知覚過敏緩和成分が入った歯磨き粉をまず試すことができます。それでもしみる症状が続いたり欠損が進行したりする場合、食べ物が挟まりやすかったり歯の構造が弱くなる恐れがある場合、見た目が気になる場合には、削れた部分をレジンやGI(グラスアイオノマー)系材料で埋める修復治療を行います。歯肉も一緒に下がって根が大きく露出している場合には、歯肉を覆う歯周外科手術を併せて検討することもあります。まれではありますが、欠損が深くなり神経まで刺激が及ぶと歯髄炎につながることがあり、この場合は根管治療が必要になることがあります。診療は歯の修復治療を行う歯科が担当し、歯周科との連携が必要になることもあります。

経過と注意点

原因となる習慣をそのままにしておくと、摩耗は進行し続け、象牙質の露出が広がり、しみる症状も強くなることがあります。修復治療の後も強く磨く習慣が残っていると、詰めた材料の周辺が再びすり減ったり、材料が外れたりすることがあるため、柔らかい毛の歯ブラシで適度な力で磨く習慣を維持する必要があります。しみる症状が急に強くなったり、刺激がないのにズキズキする痛みが続いたりする場合は、受診が必要です。